最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)860号・昭27年(オ)859号 判決
二七(オ)八五九号上告人(二七(オ)八六〇号附帯被上告人) 秋田県選挙管理委員会
二七(オ)八五九号被上告人(二七(オ)八六〇号附帯上告人) 山内清一郎
二七(オ)八五九号被上告人 岩谷茂治
一、主 文
上告人秋田県選挙管理委員会の上告を棄却する。
原判決主文中第一項、第三項及び訴訟費用を被上告人(附帯上告人)清一郎に負担させた部分を破棄する、昭和二十六年四月二十三日執行の秋田県北秋田郡綴子村長選挙における被上告人(附帯上告人)清一郎の当選は有効であることを確認する。
被上告人茂治の確認請求はこれを棄却する。
上告費用、附帯上告費用及び原審において被上告人(附帯上告人)清一郎と上告人(附帯被上告人)との間に生じた訴訟費用は上告人(附帯被上告人)の負担とする。
二、理 由
上告人代表者本間金之助の上告理由第一点及び第二点について
公職選挙法八十九条によると公務員は原則として在職のまま公職の候補者となることはできないのであるがそれにもかかわらず公務員が在職のまま立候補の届出をした場合に選挙長はその届出について実質的審査権を有しないものと解するのが正当である。けだし公職選挙法六十八条一項二号は同法八十九条の規定により公職の候補者になることができない者の氏名を記載した投票を無効とする旨を規定し、それにあたるかどうかは開票立会人の意見をきいて開票管理者が決定するのであるから立候補届出が八十九条に違反しているかどうかは選挙長が単独で判定すべきものではなく従つて選挙長がその実質的審査をする権利もなく義務もないことは自ら明らかであるといわなければならない、然らば原判決が右と同一の見解の下に本件選挙において選挙の管理執行に関する規定の違反なく選挙の無効を来すものでないと判断したことは正当であつて原判決には所論のような違法なく論旨はいずれも理由がない。
附帯上告代理人弁護士沼生三、同長谷山行毅の附帯上告理由について、
附帯上告人が原審において附帯上告人は昭和二十六年三月三十一日まで同村議会議員であつたことは相違ないが本件村長選挙に立候補するため同年三月三十一日綴子村役場において執務中の同村議会書記兼同村選挙管理委員会書記堀内由蔵に対し、口頭で両日限り同村議会議員を退職する旨の意思表示を為し、且つ右退職申出手続につき遺漏なきを期せられ度き旨念を押した事実を主張し附帯被上告人は右の事実は争わないが右退職の意思表示は同村議会議長に通しておらず且つその許可も得ていないから法律上これによつて辞職の効力は発生していないと抗争したことは原審口頭弁論調書及び原判決事実摘示の記載によつて明白である、原判決は右の点に関し論旨指摘の如く判示し附帯上告人は村議会議員を辞職することなくして村長に立候補して当選したものであるから、その当選の効力は否定されなければならないとして附帯上告人の本訴請求を棄却したのである、しかしながら前記の如く附帯上告人が昭和二十六年三月三十一日綴子村役場において執務中の同村議会書記堀内由蔵に対し口頭で同日限り同村議会議員を辞職する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いない事実であり、村議会の書記は上司の指揮を受け議会の庶務に従事する権限を有するものであるから議会又は議長に対する書面又は口頭による届出を受理する包括的権限を有するものと解すべく従つて本件の場合には附帯上告人は同村会議長に対して辞意の表明があつたものといわなければならない、そして右堀内由蔵が附帯上告人の辞意を同村議会議長に伝達しなかつたとしても、それは議会書記と議長との議会内部のことで、これがために附帯上告人の辞意の表明がなかつたものとみることはできない、もとより議員の辞職には本件のように議会閉会中においては議長の許可を要するのであるが、公職選挙法九十条によれば在職のまま立候補できない公務員が立候補の目的で辞職の申出をした場合にその申出の日から五日以内に辞職できないときはその申出の日以後五日に相当する日に辞職があつたものとみなされるのである、そして本件において附帯上告人が辞意を表明したのは前示の如く昭和二十六年三月三十一日であるから附帯上告人が立候補届出をした同年四月三日にはまだ辞職の効果を生じていないが立候補届出期間内に辞職の効果を生じているのであるからそのときから立候補届の効力を生ずるのである(昭和二十七年(オ)第三七七号同年十月三十一日当小法廷判決、集六巻九号九五四頁参照)しからば附帯上告人の当選の効力を否定した原判決は失当であつて論旨は理由あり原判決は右の点につき一部破棄を免れない。そして本件については原審で確定した事実に基き裁判を為すに熟すると認めるから附帯上告人の当選の有効なることを確認し被上告人茂治の確認請求はこれを棄却すべく、上告人秋田県選挙管理委員会の上告については民訴三九六条三八四条、訴訟費用につき同法八九条九五条により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)
上告人の上告理由
第一点 原判決は、選挙管理委員会の選挙に関する日常の実験則を無視して事実を認定した違法の判決である。
原判決は、被上告人山内清一郎が綴子村長選挙につき、立候補にあたり、当時村議会議員であつたため立候補制限に該当するため、該議員辞職の意思をもつて、村議会書記であり又村選挙管理委員会の書記であつた証人堀内由蔵に対し辞職手続方を依頼したので辞職の手続を了したものとして昭和二十六年四月三日立候補の届出を、証人堀内由蔵に届書を作成しもらいなしたものであることは推認するに難くないことは「村議会書記である証人堀内由蔵が同村議会議長に伝達しなかつた徳義上の責任あるとしても……」とあること。又選挙管理委員会及び選挙長(村選挙管理委員会委員長)の選挙に関し自由、公正、平等の原則に則り明文の規定のないものについては、条理としてなすべきことを無視し得ない限り絶対にあり得ない。
本件の如く被上告人山内清一郎が立候補制限の公職にあつたため辞職の意思をもつて辞職手続行為のあつたこと、又議会議員であつたことを何人にも明らかに認め得る場合においては、その立候補届出は瑕疵ある届出であつて、その立候補は適法化されたといい得ない。この事実を知悉しながら、立候補できない者を候補者として選挙運動をなさしめたことは、選挙の管理執行規定の違反であり、しかも当該候補者の存否によつて、選挙人の投票の結果に異動があることを当然考え得るので、この矛盾を究明することなく漫然証人畠山茂一、同堀内由蔵の言のみ用いて判断したことは審理不尽の違法である。
第二点 原判決は、公職選挙法第二百九条を適用しない違法の判決である。
原判決は、被上告人山内清一郎の立候補の届出の瑕疵は立候補者間の側にのみ存し、選挙管理者の側にありとなすことは正当でなく、かかる事実は、当選無効の事由となすことは格別選挙の全部無効を招来する形式的又は実質的法規違反となすことも正当でないとの理由であるが、
公職選挙法第八十九条の規定により公職の候補者となることができない者と認めたときにおいても届出書類の形式上違法の点がなく立候補の届出の瑕疵は公職選挙法第六十八条第一項第二号の規定があるからといつて公務員の立候補の届出書につき選挙長に何等の審査権もなく又立候補資格の有無はすべて選挙の効力の問題ではなく当選の効力に関する問題であるということはできないし、届出書類上の形式が整つている限り選挙長がこれを候補者として取扱い得る場合は、選挙長が真に知悉しなかつた場合に限り取扱い得るがこの場合においても選挙会において、その最終的決定を行うことが選挙法の建前である。この事実は証人畠山茂一(選挙長)の証言により審査しなかつたことは明かであるが説示していない。又第一点において述べたように証人堀内由蔵は、一書記であるが、立候補届受理は選挙長の名において一切行つたものであり、まして被上告人山内清一郎が議員の辞職手続方の依頼のあつたことを認めつつ受理し、これを告示し、候補者として選挙運動をなさしめ選挙人も又候補者として投票をなしたことは明かであつて公職選挙法第六十八条第一項第二号の規定があるからといつて、無効の治癒を認めないで当選の無効となすことから生ずる不利益を候補者のみに転嫁すべきものではなかろう。
原判決は、『苟くも選挙の管理執行の規定に違反する事実があり、そのため選挙の結果に異動を来すおそれある場合は、該選挙は無効であるが、選挙の管理執行に関する規定は必ずしも明文の規定に限らず選挙の自由と公正を期することを第一義とする選挙法規の根本精神に副わない不公正な行為もこれを含むと解すべきである。』と判示しながら実質的審査権がないとして、本件のように立候補制限の公職にあることは何人も知り得べき状態にあり又辞職手続方の依頼行為のあつた事実等より推察して知らずに受理したとする認定の不当があり、又当然当選人となり得ない者を選挙に参与せしめることは、選挙の自由公正を害するものであり選挙人の判断上不当な影響を及ぼすから選挙の管理執行に関する規定に違反し、しかも選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合にあてはまるものであるから、公職選挙法第二百五条の規定より選挙無効の原因として然るべきものであるが、ことにここに出でなかつた原判決は当然破毀を免れない違法の判決である。
以上
附帯上告人弁護士沼生三、同長谷山行毅の附帯上告理由
原判決は、附帯上告人山内清一郎は昭和二十六年四月二十三日執行の秋田県北秋田郡綴子村々長と同村議会議員との同時選挙に於て村長に当選し、目下当村々長在職中なること、同附帯上告人の当選決定後たる同月二十七日選挙人である上告人岩谷茂治から附帯上告人山内清一郎が同村選挙管理委員会に対し同人の当選の効力に関する異議の申立が為されたこと、同年五月五日同委員会は右異議申立を理由ありとして同附帯上告人(原告)山内清一郎の当選は無効であるとの決定を為したこと、同附帯上告人山内は同五月二十二日秋田県選挙管理委員会に対し訴願を提起し該決定の取消を求め同委員会は同年十一月二十日附を以て右村選挙管理委員会の決定を取消し前記村長選挙無効の裁決を為し該裁決書は同月二十三日附帯上告人山内に送達せられたること、同人が右選挙に際し立候補届出手続を同人主張の綴子選挙管理委員会書記兼同村議会書記堀内由蔵に依頼したることは被告の認むるところであつて右依頼の日時が同年三月三十一日であつたことは附帯上告人山内本人訊問の結果に徴し之を認むる所であると判示し、尚ほ同村議会閉会中であつたことは証人三沢の証言により明かであるから右村議会議員辞職手続は同村議会議長に対し為さねばならぬことは言を俟たないところ右堀内が同附帯上告人山内の依頼に基き同選挙執行の日までに同村議長に対し同附帯上告人山内の右辞職申出に関する書類を作製して提出する手続を執つた事実も口頭で同人の辞意を伝達した事実を肯定するに由なく却て証人三沢の証言によれば全然かかる事実がなかつたことが認められる云々、以上合式に村議会議長に対する附帯上告人の辞意の表明があつたと為すことはできない云々、上叙の次第で既に右選挙執行以前に附帯上告人山内の右辞職申出の事実が認められないとせば其効力の発生有無、乃至その時期の点に関する当事者の主張については判断の要はない、公職選挙法第八十九条第二項は在職のまま立候補することを禁止されて居る公選による公務員が其者の任期満了の為めに行はれる後任者の選挙に在職の儘立候補し得る特例を定めたもので本件の如く村議会議員が村長選挙に立候補する場合同選挙が同時に執行されたからとて右特例の適用を受け村議会議員在職のまま村長立候補ができると解すべき証拠はない、然らば同附帯上告人山内は村会議員を辞任することなくして村長に立候補して当選したと云うの外なく其当選の効力は公職選挙法第八十九条の解釈上否定されねばならぬ運命にあるものと云はねばならぬと判示し、附帯上告人山内の請求を棄却したのは法律の解釈を誤つた理由不備の違法あるものと云はねばならぬ。
本件附帯上告人山内清一郎は昭和二十六年四月二十三日執行の秋田県南秋田郡綴子村長選挙に同村長候補者として立候補したことは原審に於て確定した処であつて争点は右立候補するに当つて同村々会議員の公職を辞したるや否やにあるのである。而して附帯上告人山内清一郎が右立候補するに当り其辞職手続を同村々会書記堀内由蔵に依頼したるにことも亦原審に於て確定したところである。尚ほ附帯上告人山内が右辞職手続を採るよう依頼したるときは同村会閉会中であつたから同村々会議長の許可が必要であることは地方自治法第百二十六条の明定する所である。
普通の地方的慣行に従ひて右辞職届が同村会議長の下に達すれば十分であるのに本件は其届出手続を堀内が採らなかつた為めに村会議員であつた附帯上告人山内清一郎が村長選挙に立候補するに当り右村議会議員辞意が同村議会議長に通じたるや否やにありと云はねばならぬ。地方自治法第百二十六条に依れば村議会議員が辞職する場合に村議会閉会中の場合は同議長の許可を要する旨の規定があるも其許可の形式に付ては何等の定めもなく又辞職手続にも書面によると口頭によるとを問はず一定の形式なく村議会議長が之を認むるを以て足りることが明らかである。
従て村議会議長が其村に於ける最も優位の公職である村長候補者として立候補し居る山内清一郎自己の統理する村議会議員の一員であることは公知の事実であつて而も議長は其事実を知悉し居たる事実より之を推認するときは従しや辞職手続が直接同村議会議長に通せざりとするも同議長が之を知悉し居る以上同議長は黙示の許可を与えたるものと云はねばならぬ。証人三沢修之助の供述として自分は綴子村々長選挙当時の村議会議長であつて昭和二十六年三月二十七日より同三十一日まで村議会を開いたが其閉会後懇親会席上で自分は今後は議会議員にならぬ、村長選挙が行はれるが立候補する仁が議員を辞めねばならぬ、立候補者あれば辞任を許可して大きな判を押すから知らしてくれ云々、其席には山内も同席して居つた云々の供述により明かである。
従て原判決は、右附帯上告人山内が村会議員を辞することなく村長候補に立候補したものとして公職選挙法第八十九条に違反したから其当選は無効であると判示したのは法律の解釈を誤つたものと云はねばならぬ。
以上
附帯上告代理人弁護士長谷山行毅の附帯上告理由
原判決は原告の請求を理由なきものとして之を棄却し且つ原告に対し訴訟費用の負担を命じたが右は不服につき茲に附帯上告に及ぶ次第であります。
以上